INTERVIEW/
EVENT REPORT

MASH HUNT
MASH HUNT

2021.07.08

ARTIST INTERVIEW

「MASH HUNT LIVE Vol.4」で
BEST ARTISTを獲得した「くだらない1日」。
激情を歌い鳴らす理由と理想について

3月27日に新宿LOFTにて行われたライヴ審査「MASH HUNT LIVE Vol.4」にて、くだらない1日がBEST ARTISTを獲得した。当日は荒々しいサウンドの中で際立つ美しいメロディ、日々の鬱憤をガソリンにすべてを曝け出すように歌い上げるパフォーマンスで会場の空気を一変。高値大輔(Vo&G)以外がサポートメンバーだということを忘れるほどの熱気に満ちたパフォーマンスを繰り広げた。「90年代エモに強烈な影響を受けた」と公言する高値は、バンドを結成してからこれまでの時間のほとんどを、サポートメンバーを交えながらもひとりで活動を続けてきた。彼は何故泣き叫ぶように激情を鳴らすのか――高値に話を聞いた。

 

 

空港に行く帰りのバスの中でAmerican Footballを流したら、
その時に見てた景色が『あぁ、美しいな』って思えて

▶まずバンドを結成した時のことを聞かせてもらえますか?

「結成したのは2017年で、高校生の時でした。当時もサポートを雇いながら僕ひとりで活動をしていて。実は途中でメンバーを固定してやろうと思ったこともあったんですけど、人が怖かったりして……でも、これ以上キャパが増えると限界だってところに来てしまったので正規メンバーとしてドラムに入ってもらったことがあったんです。その人はもうやめちゃったので、今はまた当時の形態に戻って僕ひとりで活動を続けている感じです」

▶人が怖いっていうのは、小さい時から団体行動が苦手だったりとか、友達に嫌なことをされたとか、何か原因があったんですか?

「僕の周りは表裏のある人が多くて、小学生くらいから振り回されがちだったんです。だから、何となく人に対して信じられない部分が常日頃からあって……怖いなって。全然優しそうな見た目の人でも少し怖いんです。とは言え、最近になって僕の巡り合った人が悪かっただけな気もしてます。今、自分の周りにいるサポートメンバーとかバンドは見た目通りで凄く優しくて。世の中、悪い人ばかりじゃないのかなって思い始めた感じです」

▶くだらない1日ではプロフィールに「90年代エモに強烈な影響を受けた」と書かれているんですけど、そもそもエモを聴くようになったのは、そういった対人関係に縛られずに自分だけの時間に浸りたいみたいな部分があったんですか?

「うーん……元々エモを知ったきっかけは中学生の時に出会った眼鏡屋の店員さんだったんですよね。僕、めちゃめちゃ目が悪くて、今もコンタクトがないと顔の判別ができないくらい目が悪いんです。で、中学3年生の頃に眼鏡を作りに行ったら、眼鏡屋の店員さんがロン毛でバンドやってる風の人で、その人が『君、どういう音楽聴いてるの?』って話しかけてきたんです。その時はYouTubeで見た程度だったんですけどNUMBER GIRLがいいなと思ってたので『ナンバガが好きです』っていう話をしたら、その人が『じゃあ君、こういうのを聴いたほうがいいよ』って、American Footballを教えてくれたんです。その時はそんなに『あぁ、すげぇ!』みたいな感動はなかったんですけど、中学生の時に修学旅行でヨーロッパに行ったんですね。その時に一緒に回る友達がいなくて、ずっとひとりで巡ってて。空港に行く帰りのバスの中でAmerican Footballを流したら、その時に見てた景色が『あぁ、美しいな』って思えて」

▶今までにない感覚を得た感じだったんですか?

「そうですね。ヨーロッパの空港に行くまでの高速道路っぽい凄く暗い場所で聴いてたんですけど、その景色すら凄く綺麗に見えて、めちゃめちゃ感動したのがきっかけでエモを好きになったんです。今振り返ると、僕はエモに縋っていたんだと思います。救われたから好きになったみたいな感じなのかなって。現にバンドを始めるまでは楽しいから聴いてるみたいな部分が強かったです。僕は一般的にオタクと呼ばれる種族で、バンドを始めるまではニコニコ動画やボーカロイド、ゲーム動画を見るノリでエモを聴いてましたね。対人関係の話が出てましたが、元々ぼっちだったので自分の時間に浸りたいとかはなかったですね。だいたい1人なので」

▶高校3年生でバンドを始めたのは自分でエモを鳴らしてみたいと思ったからなんですか?

「いや、違います。そもそもバンドを始めたのが好奇心からの出来事だったので……憧れというか、人生で1回はバンドをやってみたいなっていう気持ちがあって。それにほんの少しの下心がプラスされた状態で始めていたので最初は歌モノをやってました。さっき話した元正規メンバーのドラムが『こういう曲にしよう』って強く言ってきた時もあって、それに寄せて曲を作った時もありました。実は、くだらない1日がMASHに応募したのは今回が2回目なんですよ。1回目に送ったのが歌モノを激しくしたみたいな音楽でした。なので、バンドを始めた高校3年生のときは自分でエモを鳴らしたいという気持ちはなかったですね。」

▶そのドラムの人はどういう経緯で加入した人だったんですか?

「僕がバンドをしたいって思った時に、スタジオで暇そうなおじさんに『ドラム叩いてください』って話しかけたんですよね。そしたら快く叩いてくれて、その人が正規メンバーになりました。ただ、2人での活動は難しかったです。音楽性の違いとかもあって(笑)。最終的に僕ひとりに戻ったので好きなものを作ってみようと思ったら、今みたいなエモとかハードコアとか、そういう音楽がベースにあるものになっていました」

▶それは今まで高値さんがよく聴いていた音楽だからということもあると思うんですけど、ご自身が歌いたいこととエモやハードコアの相性がいいなと感じる部分があったと思います?

「僕の偏見で話をすると、エモって30代、40代のおじさんが泣きながら叫び弾いてるみたいなものだと思っていて、それが凄く好きなんですよね。僕の書く詞は凄くなよなよしてて女々しいものが多いので、そういう言葉にエモが合うのかなと思うことはありましたね。それでやり始めてみた感じです」

 

情緒不安定な気持ちになるのって僕だけじゃないと思ってて。
似たようにしんどいと感じている人が自分のことを歌っていると思ってくれるのを願ってます

▶なよなよして女々しい詞が多いっていうのは、ご自身の性格から来るものなんですか?

「僕はなよなよしてて女々しいのですが、詩は自分から来ることはあまりないような気がします。詞を書く時に友達に最近あった嫌なことを聞くんですよ。その人の経験談を。それで大変そうだなとか、自分じゃ何にも力になれなかったなみたいな気持ちになって歌詞を書いてます……あ、これ自分の性格からきてますね。友達から愚痴を言われたときとか暗い気持ちになるので凄く書きやすいです。話を聞いて曲にできるなと思ったら無許可でありがたく使わせてもらってます」

▶暗い気持ちを曲に移してしまおうと?

「そんな感じですね。少しスッキリします。」

▶“たぶんそうですね”という曲で<どうしているのかな>という言葉が出てくるじゃないですか。この曲って展開が目まぐるしかったり、叫ぶように歌う部分があったり、言葉からもサウンドからも情緒不安定な印象があって。少なからず高値さん自身の感情が投影されているものなのではないかと感じた曲なんですけど、実際はどうなんですか?

「それは自分のことですね(笑)。これは昔つき合ってた人と別れた時にそういう気持ちになったので書きました……。こういう情緒不安定な気持ちになるのって僕だけじゃないと思ってて。どこか似たようにしんどいと感じている人が自分のことを歌ってくれていると思ってくれるのを願ってます。尊敬しているバンドも人の感情を投影したり動かしたりするような詩が多くて、その人たちのようになりたいんですよね。もちろん売れて音楽で食べていきたいとも思うし、だからMASHみたいなイベントで多くの人に見つけてもらって、あの人達みたいになることを目標のひとつにしています」

▶それはどうしてなんですか?

「僕、くだらない1日をジャンルで括るとしたらエモだと思っているんです。それくらい自分の音楽のベースになっているというか、曲を作った時に影響を受けているなのが圧倒的にエモなんですよ。自分の人生で一番聴いてきたジャンルで、自分が一番得意で、思い入れがあるからだと思うんですけど……。でも、エモって色んなジャンルのライヴがある中で、明らかに観てる人が少なくてガラガラなんですよ。そしておじさんしかいないんですよ。だから、そこにいる人達とバンドのみんなで『最高だぜ!』って内輪乗りみたいになることが多いんです。その感じもわかるんですけど、それだとみんな40、50と年を取っていって、いつかいなくなってしまうじゃないですか。そうなる前に僕はもっといろんな人にこのジャンルを知って欲しいんです」

▶好きなものがなくならないように自らの手でエモを広げていきたいと。

「はい。今エモを聴いてる日本人は特に少ないと思っているので増やしたいですね。くだらない1日で違うジャンルの人とライヴをすると『エモってカッコいいね!』って言ってもらえることが凄く多いんですよ。かっこよさが知られてないだけなんです。だから僕がめっちゃ売れて、そう思ってくれる人の母数をもっと増やしたいなと思ってて。それこそ僕が眼鏡屋の人にレコメンされたような感じで、自分と似たような若者が何かの偶然でエモに出会って欲しい、そこで出会うエモがくだらない1日だったらいいなって思ってます。そのためにもAmerican Footballとか、レジェンドと言われる、『エモ バンド』って検索したら一番上に出てくるような人達になりたいんですよね」

 

▶今年リリースされた『split』というAnorak!と共同で作られた作品ではエモをベースにしながらも、あらゆる要素を混ぜてポップに昇華した印象を受けたのですが、それもエモを広く伝えるために挑戦したことなんですか?

「そうですね。普段は暗い曲や激しい曲ばかりを書いてるんですけど、たまには明るい曲を作ってみようとなりました。あと『split』はAnorak!を含む周りの影響も大きいかなと思いますね。僕は素直なので作る曲やリフが人からの影響を受けやすいんですよ。最近の周りは優しくて明るめの人が多いので、そういう人たちに影響されつつ完成した『split』は、かなり聴きやすいと思います。まだ聴いてない人には、ぜひ聴いて欲しいです(笑)。あと、エモの限界を広めるためにも常々いろんなことをしたいなとは思ってて。今、CDも物販もツアーの日程を組むのも全部DIYでやってるんですけど、同じジャンルの先輩達を見ていると限界を感じることがあるんですね。でも、他のジャンルとエモを混ぜることで、その限界を超えられるんじゃないかとか、今よりは広がるんじゃないかと。たとえばラッパーの友人やトラックメイカーの人と相談しながら曲を作ってみたり、興味のあることに片っ端から手をつけてみたり……僕がいろんなことに挑戦することが誰かのエモを聴くきっかけに繋がると嬉しいです」

▶今後の活動で具体的に決まっていることはあるんですか?

「直近ですが7月23日にインドネシアとシンガポールのバンドとのスプリットを3ヵ国それぞれのレーベルから共同リリースします。日本でリスナーを増やすのはもちろんですが海外でもリスナーを増やしたいと思っていたところにタイミングよくお誘いいただいて、国外のバンドとスプリットを出すことになりました。コロナが明けたら海外ツアーもやりたいと思っているので、その中でもいろんなバンドと知り合って、いいものを吸収して……日本だけじゃなく海外にも目を向けることでより良質なエモを作り出していけるよう頑張ります。もちろんそのために今から準備をしているので、楽しみにしていてください。あと、最後に……僕に何か言いたいことがある人はLINE(ID:takanenolinedayo)まで連絡ください!」

 

テキスト=桂 季永  撮影= 野田悟空

Twitter  https://twitter.com/kudaranai1nichi